1. 映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと
映画脚本の書き方を定式化し、今日においてもその理論は色褪せるどころか「三幕構成」として多くの創作家たちに受け入れられている脚本家、シド・フィールドの著書。映画脚本の指南書として書かれ、著者自身もそのつもりだったものの、映画に関わらず広い意味での物語創作術の古典として知られています。
内容はなかなか面白かったですね。言われてみれば当然だけれど確かにそれをやるのとしないのとでは違うだろうなぁという脚本づくりの基礎が述べられており、そもそも脚本の中の要素(主題・登場人物・ストーリーライン)がどうやって生まれてくるのか、それらをどのようなフレームワークに収めればよいのかが書かれています。やや繰り返しが多くて文章が散漫、また、具体例として言及する映画が偏っているという点に難を感じましたが、読後は物語を見る目が少し変わるかもしれません。
2. 目次
第1章 映画脚本とはなにか
第2章 主題(テーマ)を作る
第3章 登場人物(キャラクター)を創造する
第4章 登場人物(キャラクター)を構築する
第5章 ストーリーと人物設定
第6章 エンディングとオープニングをつくる
第7章 ストーリーの設定
第8章 二つの事件は関連する
第9章 プロットポイントを見つける
第10章 シーンを作る
第11章 シークエンスを考える
第12章 ストーリーラインを構築する
第13章 脚本の形式を知る
第14章 さあ、脚本を書こう!
第15章 脚色をする
第16章 共同執筆(コラボレーション)
第17章 書き終えた後
3. 感想
冒頭に「三幕構成」を浸透させた脚本家の著書であると述べた通り、本書では下の図がしばしば示されます。良い物語が三幕から構成されており、しかも、これは演繹的な理論というより、素晴らしい脚本が実際、得てしてこういった構成に収束しているという論法で紹介されるのです。
三幕は1:2:1の割合で脚本のページ数が割かれ、幕間には必ず「それまでの状況を一変させ、登場人物たちに全く異なる行動をさせるような事件。あるいは登場人物が起こす、世界観ががらっと変わるような事件」が起こります。「君の名は。」で言えば、「プロットポイントⅠ」が瀧くんと三葉の入れ替わりが起こらなくなる場面、「プロットポイントⅡ」が瀧くんが口噛み酒を飲んで時空を越え、三葉と再会する場面にあたるのだと思います(というように、物語を構造的に捉えられるような思考の枠組みを与えてくれるのが本書の面白いところです)。どちらもそこから登場人物たちの行動パターンや帯びている(あるいは自覚している)使命に変化が起き、物語が予期しない方向に走り出しますよね。そして、「プロットポイントⅠ」の前の「状況設定」では身体の入れ替わりという非日常に直面しつつもそれによって惹かれ合っていく二人という物語の下地が整えられ、「葛藤」では三葉に会えないという瀧くんの葛藤から始まってそれは三葉が死んでしまう(っている)という葛藤に変わり、「プロットポイントⅡ」で再びタイムスリップすることで三葉の死を回避するための道筋が見えてその実現に奔走するようになるのが「解決」といった具合です。
そして、本書ではもちろん、三幕構成の中身をどう構成していったらよいかという点も細かく言及されています。作品のテーマを決定し、登場人物のバックグラウンドを考え、エンディングとオープニングを決める。その中で重要なのは、物語を「魅せる」のはテーマや登場人物の設定ではなく、そこから立ち現れてくるアクションを観客は見るのだということ。「状況設定」の中で起こる、物語を形作る「キイ・インシデント」とそれを導くちょっとした出来事「インサイティング・インシデント」で観客の心を掴むコツ。一つ一つのシーンやシークエンスを構成する際に気を付けることなど、脚本づくり(というより物語づくり)の基礎全般がぎゅっと詰まっています。「登場人物の経歴書を書く」なんかは小説家が語る小説プロットの練り上げ方なんかでもよく聞く話ですよね。普段から創作術に触れている人にとっては耳タコな話もありますが、あらゆる「基礎」が一冊に纏まっているのは便利だと思いますし、そうでない人にとっては物語を「創る側」の視点から学ぶことができる貴重な本となるでしょう。さらに、概念論だけでなく14枚のカードを使ってストーリーラインを創っていく「カードシステム」など、実践的な方法論も記載されているのが網羅的で丁寧です。
ただ、欠点を挙げるとすれば、1つは記述方法がやや散漫な印象を受ける点だと思います。同じような文言や表現が別々の場所で何度も登場し、章立ての流れも親切とはいえません。通読するには、行間を読みつつ本書「全体」で何を言いたいかを意識しながら読まなければやや混乱をきたし、物足りなさを感じるかもしれません。とはいえ、本書の本来の目的である創作の際に辞書的に用いるという使い方ならば問題ないのでしょう。2点目は、例として出てくる映画の(日本における)マイナーさと古さです。「チャイナタウン」「シービスケット」「テルマ&ルイーズ」がよく引用されるのですが、ピンとくる日本の読者は、今日ではとくに少ないのではないでしょうか。
4. 結論
読みづらさはありますが、物語を構造的に理解するにはためになる本です。そんなことをしなくても作品を楽しむのには困らないというのは確かにそうなのですが、面白い物語はなぜ面白いのか、ということに興味のある人にとっては役に立つ本になるでしょう。もちろん、創作界隈では必読の本とされているようですので、創作者にとっては言わずともがな、なのでしょうが。新しい物語の楽しみ方を模索しているというならばオススメの本です。
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